2023.01.21

獣医師 南毅生のブログ (その3)

今回は、
“手術のはなし”です。

よく、エビデンスに基づいた医療という言葉を聞きます。
これは、我々の世界では、レフリーの存在する学術雑誌に掲載された論文(エビデンス)を参考に治療するということであって、学会発表で何かの研究結果を議論したということでは基本的にエビデンスにはなりません。
要するに、学会で〇〇先生が言っていた治療方法を実施した場合、それはエビデンスに基づいた医療ではなく、それによって治療がうまくいかなくても自己責任になります。

ここで、一般的に見られる犬の乳腺腫瘍の話をしたいと思います。

この腫瘍は、発生を予防できることから、欧米ではその発生数がかなり低下しています。しかし日本では、まだ一般的に見られる腫瘍であり、今後は発生させないように業界でその予防法を啓蒙すべきだと思います。

生後、1回目の発情までに避妊手術(卵巣子宮切除術)を実施すると、腫瘍の発生率は0.05%、2回目の発情までに避妊手術を行うと8%、そして2.5歳までなら26%と、年齢が上がるにつれて高くなります。
要するに、生後発情2回目前に避妊手術を行うことでこの腫瘍の発生をほぼ予防することができるということになります。

では、腫瘍に対する考え方はどうでしょうか?
犬の場合、乳腺は片側5個存在します。どの乳腺に腫瘍が発生するかによって、手術方法が異なります。そして、もちろん良性腫瘍か悪性腫瘍によって考え方が異なります。

J Vet Intern Med 2000(14), 266-270
腺癌の場合は、腫瘍切除と避妊手術を実施することで生存期間の延長が見られる

J Vet Intern Med 2013(27), 935-942
腺腫あるいは過形成の場合には、腫瘍・腫瘤切除術に避妊手術を実施することで、良い結果になります。
乳腺腫瘍・腫瘤は、術前から良性か悪性かの確認は困難なことがありますが、ここで重要なことは避妊手術です。

各乳腺に発生した腫瘍に対するエビデンスに基づく手術方法に関して、JCABINで論じていますので、参考にして下さい。
※乳腺腫瘍の詳しい術式等は、南毅生LIVEセミナー(要申込)にて詳しく解説しております。

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文責 南 毅生

Takeo Minami,DVM,MS,PhD,JCVS

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